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TAKAKO★マッドネスの何がアカンのよ

ぶっちゃけ、twitterで長文書くのめんどい。

短編「そんな人もいたねえ、と」

Aと言う男は苛立っていた。非モテで根暗ヲタなAは良い歳して彼女がおらず未だ童貞。そんなAに出来ることと言えばネットの世界に八つ当たりする事だった。
事件のニュースを見れば「在日」、痴漢のニュースを見れば「冤罪」、そしてモテる方法を考えれば「※ただイケ」……。

そう、「※ただしイケメンに限る。」何と便利な言葉だろう。己が不勉強をこの一言で全て正当化出来る。今日もまた、モテるモテないの話でAは「※」と入力した。

「いや、文字の見えないネット上でもモテ無さそうな人はモテ無さそうだから顔とか関係無いと思うよ」
背後から声がする。
「だ、誰だ!?」
フリフリな服を着た金髪の女が、そこにいた。
「本物川、とでも言っておこうか」
よっちゃんイカをかじりながらプレミアムモルツを飲み、女はそう言った。
「大体だね、君が何かの間違いでイケメンになったとして、だ。それで上手な恋愛なんて出来る訳?」
「そ、そんなの、やってみなけりゃ、わ、解んないだろ!」
「ふーん」
プレミアムモルツを飲み干し、本物川と名乗った女はAを指差しこう言った。
「じゃあ、間違いを犯してみようか」
「えっ」
何か、不思議な空間に引きずりこまれる感覚のA。

「はっ」
朝起きるとAはイケメンになっていた。鏡に映る別人のような自分。鏡の右下に、口紅でこう書いてある。
「渋谷にでも行ってみな」

Aは渋谷にやって来た。やって来たは良いものの、何をしたらいいか判らない。取り敢えずショップに入っても、何をしたらいいか判らない。あまりにも挙動不審が過ぎてお巡りさんに職質されたりもした。ハーブやってると思われてしまった。

それでも来る日も来る日も渋谷でふら付いて一週間、Aに彼女が出来た。B子としておこう。
付き合った経緯は定かではない。ショップでうろついてる所を店員のB子に声をかけられ、デートの約束をした。
この時Aが知ったのは「リア充やるにも金がかかる」と言う事。B子が「今日どこ行く?」とAにデートプランを委ねるとAが「どこでもいいよ」と毎回言うので決まってB子はショッピング、それも高そうな店ばかり訪れた。次第に出費がかさむようになり、コンビニのバイトもシフトを増やして貰った。DQNが怖くて避けていた深夜のシフトも入れた。
何より、B子はヤらせてくれなかった。これはAも誤算だった。リア充は毎日パコパコしてると思ったのに、思いの外、B子の防御力が高かった。
次第に苛立ちが募るA。付き合ったばかりの頃は愛しかったB子を、次第に鬱陶しいと思うようになった。

そんな折、C美に出会った。夜、バイトの帰り道の公園で、散々酔っ払ったC美がブランコに座って寝ていた。
「危ないですよ」とAはC美に声をかけた。イケメンのAに声をかけられたC美はびっくりして酔いが覚め、タクシーで家に帰った。
翌日、Aの働くコンビニにC美がやって来た。お礼がしたいと言った。あの晩、付き合ってた彼氏にフラれたと言う。
優しくしてくれたAにC美は告白した。

C美との初デートでAは生まれて初めてラブホテルなる施設に足を運んだ。C美が誘ったのである。
「どうしたんですか?嫌……ですか?」
Aは心臓がバクバク言っている。初めての行為、AはC美で童貞を捨てた。

それからと言うものの、AはC美とも付き合うようになった。かといってB子との関係も切れずにいた。
「初めて付き合ってくれた女だ。他に女が出来たくらいで関係を終わらせるのはB子に失礼だ」
と言うのがAの考え方だった。

この関係が終わるのは必然的だった。Aと来たら、うっかりB子とのLINEで
「C美愛してる」
と送ってしまったのだ。すぐさまAはB子に詰問され、暫くしてC美をカラオケボックスに呼び、三者面談が行われた。
中立的な立場で穏便に済ませたいAだったが、彼の煮え切らない態度が次第に空気を悪化させ、とうとうB子とC美がキレた。
「てめえ人の男ネコババしといていい気になってんじゃねーぞゴルァ!」
「やかましいんじゃボケ!捕られて嫌なら金●に名前でも書いとけアホンダラ!」
体験したことの無い修羅場にビビり、トイレに行くふりをしてAは、逃げた。
暫くしたらB子とC美は二人仲良くプリンセス・プリンセスの「M」を合唱していた。

最悪の形で初めての恋愛を終わらせたAだが、童貞を捨てた事で自信がついた。次こそは、と思いながらAが新宿へやって来ると、駅のダンジョンで一人の女性が困りながらウロウロしていた。
名前はD恵としておこう。田舎から上京したばかりのD恵は右も左も解らない都会で迷子になっていた。
「どうしたの?」
「あ、あの、出口が解らなくなっちゃったんです……」
Aは親切に出口を教えてあげた。
「どうもありがとうございます!」
親切に挨拶するD恵に、Aはこう言った。
「あ、そうそう。帰りもこの駅使う?」
「はい、そうですが……」
「だったら、また迷子になるかも知れないから、メアド教えるよ。何かあったら、また教えるから」
「はい、ありがとうございます!」
D恵は何も疑わずに目的地へ向かった。

その日の晩、Aにメールが届いた。
「今日は本当にありがとうございました。お礼をしたいので、またお会い出来ませんか?」
暫くしてAはD恵を家に招き入れた。D恵は田舎から大量の野菜を持ってきた。D恵はお礼と称してAの家の掃除と片付けを始めた。
「疲れるでしょ?肩揉んであげるよ」
そのままD恵を布団に誘い、致した。D恵にとってAが初めての相手であり、初めての彼氏である。

このD恵とは別にEおばさんなる人物にも出会った。美容室で出会ったそのマダムは熟れた肉体を殊更アピールしてAを誘い、致した。夫に満足出来ないEおばさんは、Aに若さを求めていた。
このEおばさん、致す度に毎回「お小遣い」と称して10万円をくれるのだ。こうなるとコンビニでのバイトが馬鹿らしくなる。思いきってAはバイトを辞めた。
Eおばさんからは金だけでなく家具等も貰った。高そうな品物ばかりだが段々置場所が無くなってくる。そこでAは思いきって数々のヲタグッズを全て売り飛ばした。Aは今までこんな「絵」に「俺の嫁」と言っていた自分が情けなくなった。現実の女とふれ合える今では。

家事をしてくれるD恵と、お金を恵んでくれるEおばさん、その他、貢いでくれる女をAのアドレス帳では「養分」と名付けた。Aはこれらの「養分」をキープしつつ代わる代わる女をとっかえひっかえした。
妊娠させたある女の降ろす費用も「養分」に建て替えて貰った。

次第にAは怠慢になっていく。行為は独りよがりのワンパターンで、それを指摘した女は直ぐに振った。Aは自分では上手だと思っていた。
Aは顔はイケてるので付き合うのは容易いが女はAの薄っぺらさにすぐに気づいて関係が続かない。この事をAは「経験豊富な俺様」と捉えていたが何故恋愛が長続きしないのかと言う疑問は抱かない。
Aはヲタも見下すようになった。秋葉原へデートに誘われた時など、わざわざ彼女に人前でキスをして優越感に浸った。
二股三股当たり前、女に貢がれ何不自由ない、正に全盛期、Aの天下は続くと思われていた。

イケメンになってから四年目のある日、Aは頭頂部に違和感を感じた。何やらスースーする。
この日を境にAのナンパでの勝率がガクンと下がった。ヤり慣れてる女たちも、行為の後で疎遠になるか別れを切り出し始めた。
実はこの時、Aの頭頂部がハゲて来たのだが、女たちは皆、気を使って言い出せずA自信も気がつかなかった。
だが、空気の読めないFちゃんと言う女性が、行為の後でうっかり言ってしまった。
「あのー、Aさん。後ろ髪薄くなってませんか?」
Aは怒り狂った。出ていけと怒鳴り付けてFちゃんとはそれっきり。
これがケチのつけ始め、慌ててドンキでウィッグを買って誤魔化したもののさらにナンパの勝率は下がる。蒸れて頭皮にダメージが蓄積してさらにハゲが進行する。

深刻なのが「養分」に切られる事。家事を頼むため、久々に会ったD恵は何やらもっさりしていた。
「オーガニックにはまっているんですー」
と連れてこられた場所は新興宗教の施設。怪しげな読経の合唱と胡散臭いパンフレット。Aはやっとの思いで施設から逃げ出した。D恵ともウィッグともおさらばした。
次いで、金をもらう為Eおばさんの元にやって来たAだがEおばさんはAの髪を見て愕然とした。Aに若さを求めていたEおばさんは素っ気ない反応で
坊っちゃんごめんなさいね、おばさん今日は体調優れないの」
と、金だけ渡してやんわり追い返した。
それでもまたAが門前にやって来ると、溜まりかねたEおばさんがこっそり通報した。
「すいません、この家にご用ですか?」
Aはまたもや逃げ出した。Eおばさんとの不倫が終わった。

ある「養分」は事業に失敗して逆に保証人になるよう頼まれ、またある「養分」は警察の御用になり、次々に「養分」が削られるA。コーディネート担当の「養分」にハゲを理由にフラれてからは自分でコーデをしなければならなくなったが、人任せにしすぎたAのファッションセンスは壊滅的で、それでも自分はイケてると思ってナンパを止めないAのランクは「イケメンのリア充」から「勘違いハゲ」へと格下げされた。

宗教にハマったD恵から逃れる為、Aは引っ越しを決意した。Eおばさんから貰った家具も全て売り払った。
不動産屋に職業を聞かれ、無職と言うのが恥ずかしかったAは苦し紛れにこう答えた。
「仕事は恋愛コンサルタントをしています!」
不動産屋は(何言ってんだこいつ)と思った。
Aに紹介された物件は築40年、トイレは和式で風呂は無し、格安の物件だ。

フラれにフラれてとうとう最後の女にも切られたAは万札を握りしめて雑居ビルの前に立つ。プライドが許さないが、一週間も女と致していないAの股間が悲鳴をあげている。
指名した女にAはまず上から目線で今までの自慢話、からの風俗嬢への説教。嬢も慣れてるからそう言うプレイだと思って聞き流していた。それでも嬢が手でAの子息をしごくとあっという間にAは出した。早い。
「はい、じゃあお疲れでしたー」
「待て待て、まだ時間が余ってるじゃないか。金払ってるんだからその分仕事しろよ、ってゆーかヤらせろ!」
「うちは本番行為禁止ですよー」
と言った嬢をAが押し倒す。
ふうぞくじょうはしょうかんまほうをとなえた。
こわいおにいさん1があらわれた!
こわいおにいさん2があらわれた!
こわいおにいさん3があらわれた!
Aはにげだした。

Aは現実の女が怖くなった。トラウマになった。すっかり怖じ気づいたAはかつての居場所、二次元の世界に癒しを求めた。
今季アニメで一番盛り上がっているのは「ふわふわミーヨ」通称ふわミヨ。Aは気になって違法サイトで試聴してみたが、イマイチ面白みが理解出来ない。四年に及ぶブランクと加齢が、Aの萌えに対する感性を著しく衰えさせていた。
皆がふわミヨブームで盛り上がってる中、「こんなもん何が面白いのか解らない」とツイートしたらファンから叩かれた。
ムカついて2chの本スレに書き込んだらまた叩かれた。アンチスレに行けと誘導されたスレでも、Aの微妙に古臭いネットスラングと過去作を持ち上げてふわミヨを叩くスタイルは住人にもウザがられ、とうとう根拠の無い関係者への誹謗中傷を書き込んだら住所と顔写真を特定された。以降ふわミヨアンチの蔑称が「カッパ」で固定された。

かつて最も毛嫌いしていた「懐古厨の老害」にまでランクを落としたAは、二次元にまで居場所を失っていた。
「何でだよ、どうして誰も俺を受け入れてくれないんだよ……」
肩を落とすAの背後から声がする。
「そりゃ、君が現実を受け入れないからだよ」
背後から声がする。聞き覚えのある声、本物川だ。
「?!」
「ああ、誰かと思ったら君か」
振り返ると、フランクフルトを片手に、よなよなエールを飲んでいる本物川がいた。
「おい!どういう事だよ本物川!」
「こっちが聞きたいよ、何でそんなに劣化してんの?」
「なあ本物川、俺をもう一度イケメンにしてくれよ、モテモテの、リア充にしてくれよ!」
「それは出来ないな。あれは単なる『間違い』だから」
「は?」
「君みたいな人間をイケメンにしたのが間違いだった、それだけ。同じ間違いは二度と犯さないよ」
「何だよそれ……」
愕然とするAをよそに、フランクフルトを頬張ろうとする本物川。
「だったら……」
ぬうっとAは立ち上がり、
「だったら、俺はお前を犯してやる!」
「うわっ!?」
本物川を押し倒したA。
「ちょ、何をするんですか!」
「うるさい!一発ヤらせりゃいいんだよ!おとなしくしてろ!」
Aの股間が、下品に反り立つ。
「フヒヒ、間近で見りゃ上玉じゃねーか。さーてどう可愛がってやろうか?あ?」
本物川の襟首を掴み、強引に服を左右に引きちぎるA。
(ビリビリッ!)
「チッ!(舌打ち)」
「フヒヒいいか変な真似すんな、オッ!?」
(ゴスッ!)
本物川の膝蹴りが、Aの股間を直撃する。勢い余った本物川は、悶絶するAの後頭部に左フックを叩き込んだ。
(ゴスッ!)
「お、ああ……」
「最低ッ!」
本物川は逃げるようにアパートを後にした。

(大丈夫きっとこれは夢なんだ朝目が覚めたらまた非モテの童貞が他愛もなくネットで馴れ合いしてるんだ……)
……目を覚ますと木造アパートの天井が見えた。
「何でだよおおおおああああ!!!!」
もう涙も出ない。疲れ果てた。
しばらくボーッとして、ふと立ち上がりAは決心した。
(このまま社会のゴミになってやる。生活保護を不正需給してやろうか、オレオレ詐欺で捕まって、刑務所で三食保証されてやろうか、いずれにせよ、社畜共の税金を食い潰してやる!)
そう思ったら、幾分気持ちが軽くなった。
Aは近所のまいばすけっとでウィスキーの瓶を二本買った。
家に帰るとAは、原液のままウィスキーを飲み始めた。飲みながらAは社会に不満を漏らした。政治が悪い女が悪い外人が悪い若者が悪い、愚痴愚痴言いながらウィスキー一本飲み干すと、急に股間が元気になった。
二本目のウィスキーを飲む時、Aは良からぬ事を思い付いた。
「今までヤってきた女ども(+α)を脳内で犯してやる……!」
こうしてAは飲みながら脳内行為と言う、史上最低の自慰行為をおっ始めた。
(グビグビ)
「B子テメー俺をATM扱いしやがって!お仕置きだ浣腸してやる!」
(グビグビ)
「ビッチの癖して清楚ぶんなよC美!ゆるふわ?ユルガバの間違いだろ!」
(グビグビ)
「田舎くせー芋女のD恵!勘違いして着飾んなよ貧乳の癖に!」
(グビグビ)
「Eババアてめー臭えーんだよ腋臭が!香水でも誤魔化せてねーぞ!」
(グビグビ)
「Fオメーは本当バカだな!フェラってる時にケータイ出るやつがあるか!」
(グビグビ)
「本物川オメーだよ最大の敵は、いいかお前は一番泣かす!亀甲縛りで蝋燭垂らしてやる!」
丸まったティッシュが散乱し、生臭い匂いが部屋中に蔓延する。
Aが最後の一滴を飲み干し、最後の一滴を絞り出した、その時だった。

「ヴッ!?」

……過度の飲酒に、激しい運動。これが意味する物。
あれだけ火照ったAの身体が、みるみる冷たくなってゆく……。

暫くして、大家が鍵を開けるとそこには変わり果てたAの姿があった。
髪はハゲ散らかし、下半身丸出しで腐臭を漂わして返事が無い。
これが、少し前までリア充生活を送っていた男の末路である。

幼稚園のバスを待つB子とC美の姿があった。あれから二人は仲良くなり、二人ともそれぞれ、顔だけの男よりも誠実な男性と付き合い結婚し幸せな家庭を築いた。
今でもB子とC美は家族ぐるみで交流している。

D恵は教団の大阪支部を任されるまでに出世した。Aとの悲恋を公演の席でスピーチすると、信者は皆、涙を流した。

Eおばさんには孫が産まれた。現在は「青少年の健全な育成を目指すマダムの集い」の会長を勤めている。

空気の読めないFちゃんは大学卒業後、育毛の会社に就職した。若ハゲに悩む人を一人でも救うため、日々奮闘している。

皆それぞれ、次のステップへと進んでいる。Aと言う男の存在を置き去りにして。
近々Aの住んでいたアパートが取り壊される。跡地にはモデルハウスが建つと言う。

 

(完)